
– Exhibition Information –
This Neighborhood’s Changed (Curated by Matt Black)
Nate Lowman
Gallery Commonは2025年4月26日から5月25日まで、アメリカ人アーティスト、ネイト・ロウマンの日本初個展「This Neighborhood’s Changed (Curated by Matt Black) 」を開催いたします。オープニングレセプションは4月25日19時~21時で、ロウマンも在廊予定です。

ラスベガス生まれで現在ニューヨークを拠点に活動するロウマンは、2000年代初頭より注目を集め、アメリカのポップカルチャーを再解釈した作風で広く知られています。ニューヨークを拠点とするキュレーター、マット・ブラックが手掛ける本展では、ロウマンの代表作とともに新作シリーズも展示され、美術史へのオマージュやアーティスト独自の文化的記号体系、アメリカのゴルフコースやハリケーンの衛星写真といった社会的背景を連想させるモチーフを通じて、ロウマン作品に繰り返し登場するイメージがいかに変化し展開されてきたのかを辿ることができます。この数年はより時事的な主題に取り組んできたロウマンですが、本展では再び「アプロプリエーション」という行為そのものへと立ち返ります。加速し続ける社会のなかで馴染みあるモチーフを繰り返し引用し再解釈していくことで、いかにして意味を操り、また再構築していくことができるのかを提示します。
ロウマンは日常的な事物を記号的に再構成することで、独自の視覚言語を20年間にわたって築いてきました。とりわけ象徴的なのが、本展でも展示される銃痕の形をしたキャンバス作品です。《エスカレード》《マキシマ》《ニッサン・アルティマ》などの車種名をタイトルに持つこれらの作品は、アメリカで販売されているリアルな銃痕をかたどった車用のマグネットステッカーに着想を得たものです。モノクロコピーのような粒子感を持った質感で漫画的に描かれたイメージは、メディアを通じて暴力的な銃文化がいかに日常化し、時に美化さえされてきたかを炙り出します。
こうした暴力性や商業主義、マスメディアといった主題は、ロウマンのキャリア全体で通底しています。複製技術を模した粒子状のテクスチャーは、展示作品の中で最初期作である《Drippy Marilyn》(2012)や最新作《Burning Palm》(2025)にも見られますが、この2作品の間にあたる10年の間に新聞という印刷メディアがオールドメディアとなりつつある今、この表現はロウマンの2014年の作品《The Snowman》(「I’ll be dead soon(私はもうすぐ死にます)」と書かれた看板を持つブロンズ製の雪だるま像)で示唆されたような、加速する衰退を示しているようでもあります。

雪だるまのモチーフは、本展ではヤシの木と共に登場します。楽園の象徴であるヤシの木は、この展示の中でも複数回登場するモチーフであり、ビーチや熱帯雨林ではなく平坦な芝の上に配置されています。これはロウマンが近年取り組むゴルフ場シリーズからの引用で、無味乾燥とした景色のなかで幽霊のようにぽつんと佇んでいます。ヤシの木もまた企業の過剰開発によって人工的に植えられた被害者であり、そしてロサンゼルスの山火事を描いた《Burning Palm》では美しくも暴力的な最期を迎えます。こうした気候変動の問題を巡るナラティブはハリケーンの衛星画像をもとに描かれた作品《Milton》(2025)で更に強調されており、一見ポップで鮮やかなビジュアルは実のところ気候災害と隣り合う社会への警鐘でもあるのです。
ハリケーンやゴルフ場をモチーフとしたドローイング作品は、《Aira’s Ovenbird》(2024)の作品背景とも繋がっています。アルゼンチンの小説家セサル・アイラの同名の短編から着想を得たこの作品では、雨の日に巣作りに苦悩する小鳥の姿がムンクの《叫び》をコミカルに引用しつつ描かれています。《叫び》のモチーフは他の作品でも、松の木の芳香剤やゴルフ場のバンカーの中に囚われる形で描かれています。

こうした実存的不安は、十字架をかたどった絵画作品《Stay Out》(2024)にも表れています。工事現場で使われる配管ラベル(機能中のパイプには「STAY」、撤去可能なパイプには「OUT」が貼られる)をもとにしたこの作品は、カトリック文化に根差す美術界に皮肉を込めたジャブを打ちつつ、「そもそもこの世界に誰が入っていきたいのか?」と投げかけます。
部首を組み替えて新たな漢字を生み出すように、見慣れた記号を組み替えノイズの中から意味を掘り起こすことで、ロウマンはどれだけ飽和したイメージであってもなお痛烈な印象を与えうることを示します。何もかもがニュースであり、同時に何もかもがニュースとならない世界にいおいて、イメージの反復は皮肉と希望の入り混じるサバイバル戦略であり、警告でもあります。ロウマンの日本での初の個展は、アメリカ文化にロマンチックな憧れを抱き続ける東京へ向き合い、いままさに「アメリカの幻想」が綻びつつあることを「The Neighborhood’s Changed(この街も変わったもんだ)」と私たちに伝えているのです。



◆◆ Exhibition Information ◆◆
「 This Neighborhood’s Changed (Curated by Matt Black)」
Nate Lowman
@Gallery Common
2025.4.26 Sat – 5.25 Sun
Open : 12:00 – 19:00
Close : Monday and Tuesday
– Opening Reception –
2025.4.25 Fri
19:00 – 21:00
◆ Venue
Gallery Common | ギャラリーコモン
2010年にen one tokyo, inc.によって設立され、現在共同設立者の新井暁がディレクターを務めるGallery Commonは、原宿のストリートカルチャーを背景に国内外のアーティストやトレンドセッターがローカルシーンと交流するための親密なスペースとして誕生しました。原宿の独特なエネルギーを育むため、原宿の中心部にギャラリーがあまりない頃から、アートを中心とした空間を同地に作り上げることの重要性を感じ、Gallery Commonはオープンしました。クリエイティブ・エージェンシーという異色の背景を元に、ファッションとアート、ストリートとコマーシャル、サブカルチャーとメインストリームという逆説的でありながらも互いに共生的な二者間のギャップを埋めることを目指しています。今後も様々な国や分野にわたる著名または将来有望な現代アーティストと仕事をともにする傍ら、国内外のアートフェアやコラボレーションプロジェクトに参加していきます。
住所 : 〒150-0001東京都渋谷区神宮前5-39-6 B1F
営業時間:12:00 – 19:00 / 毎週月曜・火曜定休、展覧会の無い日は休廊
入場料 : 無料
Instagram : @gallerycommon
◆ Artist Biography
Nate Lowman | ネイト・ロウマン
1979年、ラスベガス生まれ。これまでに、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館、ポンピドゥー・センター、ホイットニー美術館、パレ・ド・トーキョー、パラッツォ・グラッシなどで作品が展示されている。また、ミッドウェイ・コンテンポラリー・アート(ミネアポリス/アメリカ)、アストルップ・フェーンリー美術館(オスロ/ノルウェー)、ブラン・ファンデーション・アート・スタディ・センター(グリニッジ/アメリカ)、ダラス・コンテンポラリー(ダラス/アメリカ)、FRACシャンパーニュ=アルデンヌ(ランス/フランス)、アスペン美術館(アスペン/アメリカ)、Massimo de Carlo(ロンドン、ミラノ)、Gagosian(ニューヨーク)、David Zwirner (ロンドン、ニューヨーク)などで個展を開催。現在、ニューヨークを拠点に活動している。
◆ Curator Profile
Matt Black | マット・ブラック
マット・ブラックは、パリ生まれ・ニューヨークを拠点とするキュレーターであり、展覧会や映画、コラボレーションを通じて現代美術を探求するプラットフォーム「REFLECTIONS」の創設者。Nownessとの映画シリーズとして「Reflections」を発表し、それをまとめた書籍『Reflections: In Conversation with Today’s Artists』(Assouline, 2016)はホイットニー美術館から出版された。主なキュレーションに、ラシード・ジョンソン、スターリング・ルビー、アンヘル・オテロらが参加した「Reflections」(Gana Art Center、ソウル、2019年)、ヒラリー・ペシス、ジェナ・グリボン、ルドヴィック・ノス、キャサリン・バーンハートらを紹介した「Open Ended」(2020年)、「Human/Nature」(2021年)、ダン・フレイヴィン、セイヤー・ゴメス、アーサー・ジャファらが参加した「I care because you do」(The Mass、東京、2021年)などがある。また、フランク・ステラとジョシュ・スパーリングの二人展「Stella/Sperling」(Charles Riva Collection、ブリュッセル、2021年)や、パット・ステアとリーリー・キンメルを取り上げた「Partly Fiction」(WOAW Gallery、香港、2022年)、ホセ・パルラやジャミー・ホームズの個展など、数多くの展覧会を手がけている。
Instagram : @mattblackstudio